大腸がんを生きる仲間

大腸がんと生きる仲間たち

世間的には、まだ「がん=死」のイメージが根強く残っているようですが、実際には、大腸がんを克服し、充実した日々を送られている患者さんが、たくさんおられます。「大腸がんの仲間たち」は、そのような患者さんの体験を聞かせていただき、悩みや苦しみを共有しながら、前向きに病気に立ちむかうことをお手伝いしていくコーナーです。

Vol.02 No.1 佐藤敏夫さん(40歳=仮名)と奥様

なってしまったものはしょうがない、なんとかなるわ、と僕は思ってしまうんですよ。心配性なので、手術前はいろいろ心配で、先生に何でも質問しました。

中学生の娘さんと小学校6年生の息子さんを持つ佐藤さんは、40歳。技術系の仕事をなさっています。一つ年上の奥様と、ご両親との6人家族。働き盛りの一家の大黒柱に異変が起きたのは、38歳の時でした。S字結腸がん。そして後日、肝臓と腹膜への転移も発覚しました。手術をし、抗がん剤治療を始めてから、ちょうど1年。インタビューに現れた佐藤さんは、とても元気そうに、生き生きと仕事をし、毎日を楽しんでおられました。奥様も、穏やかな笑顔で見守っておられます。


大腸がん発覚、そして手術

●腹部の違和感と血便が最初の兆候

――いつ頃から、どのような症状が現れたのでしょうか。

佐藤さん平成18年6月頃から、お腹がゴロゴロ鳴ったり、張るような違和感を感じるようになりました。「なんでかなあ」と思いながらもそのまま放置していたら、11月に排便時の違和感が出るようになり、平成19年の3月には血便らしきものが出るようになりました。「おかしいな」とは思いつつも、異動で現場仕事から座りっぱなしの内勤になったものですから、違和感も「たぶん痔だろう」と思い込んでいました。お尻も痛かったのでね。

奥様私も、まさかこの若さでがんになるなんて思わなかったので、ずっと「痔だよ」って言っていたんです。私の家族にも夫の家族にもがんの人はいなかったものですから…。今になって本当に、いけなかったなあと思うんですけど。

●告知の直後は、ショックで頭の中が真っ白でした

――がんだとわかったのはいつですか?

佐藤さんやっと検査を受けたのが、平成19年の7月27日(金曜日)です。社内勤務になったおかげで、病院に行くことができました。異動がなかったら、もっと長く気づかずにいたかもしれません。
 自分では、検査が終わってすぐ帰るつもりだったんですが、予想に反して検査結果は、「S字結腸にがんが見つかりました」ということでした。腸をほぼ塞いでいるような状態ということで「すぐに入院」と言われました。「あ、これはひどいんだな」というのが率直な感想で、ショックでしたね。何も考えられませんでした。まず妻に携帯メールしたのですが、頭の中が真っ白でうまく文字が打てないという状況でしたね…。

奥様私は、メールを受け取っても冗談だと思って、軽い返事しか返しませんでしたし、主人が帰宅して、改めて「がん」と言われた時も、まだ冗談だと思って笑ってたんですよ。そうしたら、真剣な顔で「何で笑ってるの?」って。入院案内の書類を見せられて初めて「ああ、本当なんだ」と思い愕然としました。本当に信じられなかったですね。

佐藤さんすぐ入院と言われましたが、仕事のこともあったので、一旦帰宅して土・日を過ごし、週明けに仕事の段取りをつけて、7月31日(火曜日)に入院しました。

――たいへんな数日間でしたね。

佐藤さんそうでもないですねえ。その週末は、海に行きましたからねえ(笑)。

――えっ。海ですか。

佐藤さん僕、何でも「なんとかなるわ」って思うんですよ。僕の仕事は、非常に厳しい期限を切られてその条件内でやらなくてはならないことが多いんですが、今までそれでなんとかやってきた。だから差し迫った状況でも「なんとでもなるわ」ってプラスに考える感覚が身についてるんですね。(病気に)なってしまったものは仕方がないし、手術は先生にお任せするしかないですからねえ。

奥様入院中お世話になっていた看護師さんにも「佐藤さんは沈むときはガーンと沈むけど、立ち直りが早いね」って言われていました(笑)。その頃は、病状もそんなに悲観していませんでした。「転移はないと思いますよ」と言われていたので。

●夫「手術より注射のほうが心配で」
 妻「私は心配性のほうが心配で」

――手術はどのようなものだったのですか?

佐藤さん検査と準備期間をとったあと、8月15日に手術をしました。内視鏡による手術は無理ということで、開腹手術で腫瘍のある部分を切断してつなげるということでした。手術自体は難しいものではないという説明だったのですが、僕は手術が初めてだったので、「どんなことになるんだろう」「目が覚めるんだろうか」と、手術前はかなり心配しました。

奥様こわがりなんですよね(笑)。もう、病室から何度もメールが来るので、手術の成否よりもそっちのほうが心配でした。

佐藤さん「手術前の麻酔は痛いぞ」と、いろんな人から言われてね。注射が嫌いなので、もうどうしようかと(笑)。手術室では好きな音楽を流してくれるということだったので、FM放送をお願いしたんですが、実際は聞こえちゃいませんよね、緊張して(笑)。
 ただ、手術の前に麻酔担当の先生が写真つきの資料のファイルを持って来て、笑い話を交えながら、2時間くらいかけて説明してくださったんですよ。若い先生でしたが、これでだいぶ安心できました。
 実際には麻酔はぜんぜん痛くなくて、すぐに意識がなくなって、気がついたら手術が終わっていたという感じでした。先生に「切った場所によっては、人工肛門になるかもしれないよ」と言われていたのですが、それも必要ありませんでした。

●食事が楽しみ!

――術後の経過はいかがでしたか?

佐藤さん手術後3日間くらいは管につながれていて辛かったですが、その後は順調でした。回復は早かったです。30代でしたからね。手術の当日から腸も動き、排便もその日のうちにあって、看護師さんから「すごいね」と言われました。点滴からおもゆ、五分がゆ、全がゆ、普通食と、食事が美味しくなっていくのが嬉しかったですねえ。手術から9日目で普通食になり、退院までは食事がずっと楽しみでした。

奥様手術が終わってしばらくは、身体が動かないせいかすごく怒りっぽくなっていました。あまりにむっとしているから、病院に行かないほうがいいのかなと思って行かないと、やっぱり来て欲しいとメールが届きます。
 看護師さんにもわがままばっかり言って…、「窓際に移りたい」とかね。

佐藤さん4人部屋のベッド位置は、全部体験しましたよ。看護師さんに「この部屋、全部制覇しました!」って言ったら「あんた、子供じゃないんだから」って(笑)。そんな感じでわがまま言わせてもらいながら約1ヶ月入院して、8月29日に退院しました。

●嫌なことがなかった入院生活

――初めての手術・入院体験は、いかがでしたか。

佐藤さん入院生活は、ほんとに楽しいことばかりでしたよ。先生、看護師さん、お掃除の方たちまで、みなさんとてもいい方でね。嫌なことが一つもなかった。また、入院中の不安というのもなかったですね。看護師さんがほんとに親身に、時間をかけて話をしてくれました。落ち込むことがあっても、看護師さんに「大丈夫だよ!」と言われると、楽観的になれるんですよね。
 また、自分でちょっとでも疑問や不安に思うことは、「あ、これ、聞かなきゃ」って、ノートに箇条書きにしておいて、担当の先生が病室にみえた時に質問しました。「腸は今、どういう状態ですか」とか「何でおかゆを食べなくちゃいけないのか」とか。すると先生が「こうだよ」「こうだよ」って、一つ一つ説明してくださって、それで安心して「じゃ、寝よう」ということになるんです。僕は結構神経質なんですが、睡眠薬などに頼ることなく、夜もぐっすり眠ることができました。
 家族の気遣いもありがたかったです。特に義兄にはすごくよくしてもらいました。僕の母や姉も、僕がヘンな考えを起こさないように、毎日病室に来てくれて、ほんとにいろいろ気遣ってくれました。心遣いがとても嬉しかったですねえ。

奥様入院中だけでなく今もずっとそうなのですが、精神的にも、経済的な面でも、ほんとに家族のみんなに支えられてます。周りの方のありがたみが、本当にわかりましたね。

佐藤さんほんとにそうですね。みなさんのために生かさせてもらっているという気持ちになりました。今は、自分の身体は、僕のためじゃなくて家族のためにあるんだと思って生きています。
 そういうこともあって、術後はみんなと何かにつけて連絡をするようになりました。入院中は妻や子供たちと本当によく携帯メールをしました。それまでメールなんて面倒くさくてしたことがなかったんですけどね。この入院で、コミュニケーションの大切さがわかりました。以前はそうしゃべらなかった父とも、今はよく話をするようになったんですよ。自分で言うのも変ですが、本当に、変わりました。


Vol.2