大腸がんを生きる仲間

大腸がんと生きる仲間たち

世間的には、まだ「がん=死」のイメージが根強く残っているようですが、実際には、大腸がんを克服し、充実した日々を送られている患者さんが、たくさんおられます。「大腸がんの仲間たち」は、そのような患者さんの体験を聞かせていただき、悩みや苦しみを共有しながら、前向きに病気に立ちむかうことをお手伝いしていくコーナーです。

Vol.02 No.2 佐藤敏夫さん(40歳=仮名)と奥様

「ないだろう」と言われていた転移が「ある」と聞かされたときは、やはりショックでした。でも、「どうしよう」と思ってくよくよしていても、時は過ぎていきますからね。先生と自分を信じて、前向きに生きていきたいんですよ。


転移と抗がん剤治療

●肝臓と腹膜に転移が発覚

――転移がみつかったのは、いつだったのですか?

佐藤さん入院した当初のCT検査で、肝臓に転移していることはわかっていました。腹膜の転移については、「ないだろう」と言われていたので安心していたのですが、開腹してみたら腹膜にも転移があったということを、術後の説明で聞きました。「ないだろう」と言われていたものが「ある」という結果だったので、かなりガクっときましたね。「あるなら取ってもらえばいいや」とすぐに思ったのですが、何箇所もあるので手術では取れないということでした。それで、点滴で抗がん剤を入れる治療を受けることになったんです。

●1年間の抗がん剤治療生活

――抗がん剤の治療は、どんなふうに行っていらっしゃるのですか?

佐藤さん抗がん剤は3種類あり、そのうちの一つが手術した病院では扱えないということだったので、がんの専門病院を紹介してもらいました。リザーバーという器具を胸に埋め込み、そこに針を刺して点滴をします。最初の病院を退院して数日後に新しい病院に入院し、治療を開始しました。今は、2週間に1度、外来で採血と診察を受けたあと、ベッドに入って3〜4時間かけて点滴を受けています。その後2日間、薬の容器を腰にベルトで固定して、針を差しっぱなしで過ごします。

――日常生活への影響はありませんか?

佐藤さんさほど感じてはいません。ひどい副作用もありませんが、ちょっと集中力がなくなってしまうことがありますね。ですから、会社とも相談のうえ点滴中の3日間は複雑な仕事は外してもらっています。
 それから、毎日通勤前にお参りもかねて近くの神社まで歩くようになりました。こんなこと、病気になってなかったら、絶対やってないだろうなと思いますよ(笑)。治療を始めて1年もたつと、人間、だらけてきてしまうんじゃないかなと思ったのがきっかけですが、体力はつけないといけないと思っています。病気になる前からの自転車通勤も続けています。最初は30〜40分かかってた時間が、最近は以前と同じように20分くらいで行けるようになりました。

●へこんで、立ち直る

――本当に気持ちが前向きですね。

佐藤さんいや、へこむときはへこむんですよ。新しい病院で家族と一緒に今後の治療について先生から話を伺った時、僕のがんは「レベル4で、もう治らない」と言われたんです。その言葉を聞いた時は、貧血を起こして、部屋を退出してしまったんですよ。「治らない」という言葉はショックでした。でも「100%治らないのか」と聞いたら「2〜3%の可能性はある」ということでした。僕としては「可能性はあるんでしょう?」と言いたい。100%のうち2〜3%の可能性があるなら、その2〜3%になればいい、と思うんです。

奥様私も先生に「0じゃないんですね」とお聞きしたんです。そしたら「0ではないです」と。もう、それだけでいいんです。1%でも2%でも、0じゃないって聞くだけで安心でした。あまり楽観的なのもいけないのかな、と思うんですよ。本当はどこかですごく冷静に、シビアに現実を見ています。でも、せっかくこうやって今元気でいい状態なのに、心配や不安な気持ちでいたら、あとで絶対後悔しますものね。
 それに、主人はただ楽観的なだけでもなくて、どこかで見聞きしたことやインターネットで調べたことで「これは」と思うことは何でもチャレンジしてみるんです。

佐藤さん食事が美味しくない時には血流がよくなるマッサージをしてみたり、免疫力の向上にマイナスイオンがよいと聞けば、ドライブがてら滝つぼにマイナスイオンを浴びに行ったり…気分的なものかもしれないですけど、やってみると不思議といい結果が出ることが多いんです。ですから、いろいろ調べてみて、自分の心の中で「あ、これはいける」とプラス方向に針がちょっとでも振れたものは、何でもチャレンジしようと思ってるんです。
 やっぱり、好きなことを好きなだけやってみることが一番いいんじゃないかと

奥様それは、見ていてほんとにそう思いました。自分が信じているものとか、自分が楽しいことをやっているのが、やっぱり一番いいんだなあ、と。

佐藤さんこの前もね、近くのキャンプ場に、うちの家族と義兄家族、計8人でキャンプに行ってきたんですよ。会社で昼休みにインターネットを見ていたら、人気のキャンプ場がたまたま1サイトだけぽこっと空いていたので、「こりゃラッキー!」と思って急いで予約してしまいました(笑)。

奥様キャンプがすごく好きだったんですよ。でも、(病気になって)もう行けないなあ…ってずっと思ってたので…。

佐藤さん僕もまさかキャンプに行けるとは思ってなかったですから、ほんとに楽しかったですよ。

●「俺って、かっこいいかも」

――病気になられてから、自分の中で何か変わったことがありますか?

佐藤さん家族とのコミュニケーションのこともそうなんですけど、いろいろなことに向き合う際の考え方がやっぱり変わった部分かな。生きてるうちは、自分のこともちゃんとアピールしないとわかってもらえないだろうということで、何でも言うようになりました。 仕事に対しても、前向きになりましたね。今までは「来た仕事をこなせばいい」という感じだったんですが、今は疑問に思ったことは上の人にも下の人にも言うようになりました。みんな「うるさくなったな」と思ってるかもしれないけど(笑)、そうやってると、だんだん改善されていくじゃないですか。病気のことを理解してもらって、いさせてもらってる会社だから、もっとよくしたいと思うんですよ。社長室に入っていって「こういうふうにしたらいいんじゃないですか」なんて、以前は絶対言えなかったのに、今は言える自分がいる。ちょっと「俺ってかっこいいかなー」と思ったりして(笑)。逆に、今までどれだけ自分が曖昧に生きてきたか、というのを感じています。

奥様理解していただいている会社の方にも、本当に感謝しています。そして、私もどんなことにも、ありがたい、ありがたいと思うようになりましたね。
 ほんとに、それだけ。

●家族や周りの皆さんに感謝しています

――今の生活で、特別に感じておられることはありますか?

佐藤さん前回もお話をしましたが、家族をはじめ周りの方たちのサポートには本当に感謝しています。実は、手術前の説明で、切除の場所によっては人工肛門という予期せぬ話に僕がかなり動揺してしまったときも、廊下をひとりで歩き回る僕の後ろから寄り添うように義理の兄が肩に手を掛けてくれました。それで、すーっと気持ちが落ち着きました。このようなことが一度ならず二度、三度と何度もありました。また、告知から入院、手術と、今まで経験のないことばかりで不安だらけの僕たちを、担当の先生や看護師さんが支えてくれました。自分ひとりでは何もできないし、何も変えられませんよね、家族や親族、周りの方たちのバックアップがあったからこそ、今でもこうやって生活が送れているんだと思っています。入院中、毎日病室に通ってくれた妻、忙しい合間をぬって顔を出してくれた姉、そして父、母、義理の兄、姉、皆さんの励ましに僕がどれだけ救われたことか、どれだけの勇気を貰ったことか、とても言葉では言い表せません。心から「ありがとう」と言いたいですね。

●プラス思考でいきましょう

――同じ病気の方たちへのメッセージをお願いします。

佐藤さん同じ病気の方には、「プラス思考でいきましょう」ということですかね。へこむ時はへこんでいいと思うんですよ。でも、マイナスに考えるとマイナスのものが増えていくじゃないですか。くよくよしていても、毎日24時間は1秒ずつ刻んでいくわけですから、悩んでいる時間をどれだけ少なくして、プラスの方向にどれだけ時間を使うかだと思います。悩んだら、進む方向を示してくれる人なり、家族なり、話し相手を見つけることだと思います。
 僕の場合は、「どうしたらいいんだろう」ってへこんだ時に、看護師さんが話し相手になってくれた。経験と知識のある人から「こうしたらいいんじゃない?」とアドバイスをいただいたから、次のステップへ進むことができたんです。やっぱり、一人で「わからない自分」と会話していても、結果は出てこないですよね。患者同士で話していても、わからないことはわからない。経験のある先生や看護師さんとの対話から生まれるアドバイスなりが、一番身にしみるし、一番真摯に受け止められるんですよ。
 専門家の方たちの言葉は、本当に力を持っていると思います。症状が出ても「あ、それは治りますよ」と言われれば「そうか」と思えるし、本当に治ってしまう。「それは2〜3週間続きますねえ」と言われると「そうなのかあ」と思っているうちに本当にそうなったりします。医療関係者の方が「曖昧なことを言ってはいけない」と思われるのはよくわかるんですが、そういう言葉の力についても、少し考慮していただけるといいなあ、と、患者の立場として思います。看護師さんの「大丈夫だよ」という言葉で、僕はずいぶん、楽観的でいられましたから。


Vol.2